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8月6日、広島は78回目の「原爆の日」を迎えた。
先の大戦末期、米国が投下した原子爆弾によって、おびただしい命が奪われた。9日には長崎も原爆の日を迎える。犠牲になった人々を悼み、平和への決意を新たにしたい。
先進7カ国(G7)首脳が原爆資料館を視察し、原爆慰霊碑に献花したG7広島サミット後、初となる平和記念式典には、過去最多の110カ国と欧州連合(EU)代表部が参列した。世界の関心の高まりは、喜ばしい。
だが、世界の安全保障環境は依然として厳しい。ウクライナを侵略するロシアは核の威嚇を重ねている。日本を取り囲む中露、北朝鮮の核の脅威は高まっている。
事前に発表された松井一実広島市長による平和宣言の骨子は、広島サミットでは「ヒロシマの心」が受け止められたと評価する一方、核の威嚇を行う為政者がいる現実を踏まえ、世界の指導者に核抑止論は「破綻している」と訴えるという。
被爆地が核兵器廃絶の願いを発信するのは当然だ。だが、理想を唱えるだけでは平和を守れない。廃絶したい核兵器を自国か同盟国が戦力化しておかなければ、核攻撃を抑止しきれない―というのが世界の現実である点も直視すべきである。
広島サミットに対面参加したウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシアを最後の侵略者にしなければならない。そのロシアの敗北の後に、平和のみが栄えるようにだ」と訴えた。
唯一の戦争被爆国日本の国民が再び核の惨禍に見舞われることがあってはならない。政府は核保有国に核軍縮を促し、北朝鮮の核・ミサイル戦力の放棄を追求すべきである。さらに、国民を守る核抑止と国民保護の態勢を整える使命がある。
作家の原民喜は「夏の花」で広島の惨状を描く中で、「この辺の印象は、どうも片仮名で描きなぐる方が応(ふさ)わしいようだ」とし、こう書いた。
「スベテアッタコトカ アリエタコトナノカ」
悲痛な慟哭(どうこく)をつづった原は自死した。
原爆の悲惨さを世界に伝えることは日本の責務である。犠牲者を悼み、核の脅威から国民を守る取り組みへの決意を新たにする。8月6日と9日は、そういう日であらねばならない。
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2023年8月6日付産経新聞【主張】を転載しています